ハトと歓声と美大生

美大生らしくない一般人の日常をつらつらと書く

3.入学式と美大生

 

人がぞろぞろと体育館の中へと吸い込まれていく。中は静かな曲が流れていて、会場はざわめきで満たされていた。左から強いライトの光が他人の顔を照らしていた。

僕は美大生になるという実感も、余裕もない状況で入学式を迎えた。遠くの方で教授や学長の声が聞こえて、僕はなんとなく、所在なさげに尻のベストポジションを模索しながら下向いて話を聞き流していた。

僕は美大生だ。絵が好きかどうかもわからない、アイデンティティもあまりない。コミュニケーション能力や人気のなさすら悩みの一つだ。

しかしこんな僕が美大生という肩書きをもってしまった。僕が美大生。

壇上で、何かが渦巻いていて、それは僕を避けて、もしくは少しだけかすめて他人へと吸い込まれていく。それは色かもしれない、誰かが生み出した表現の色だ。多色で、滲んで、濁った色がぐるぐると、色付きのスポットライトのように壇上を照らし出す。僕はその濁りを、綺麗でも汚くもない芸術という色の集合の結果の濁りを目視しながら、とんでもない世界へと踏み出してしまったのだと思った。混沌が渦巻いた遠い遠い芸術というものに、僕のような単純でつまらない人間が触れていいのか。

 

僕は、美大生になってしまった。